吉野家牛丼期間限定販売について想う

はい、ウルトラ長文かつ極めて難解な部分が9割の日記というよりはオサーンの主張です。
無駄に長いので、多分読んでるうちに飽きますw
特に企業経営とかブランド戦略に興味の無い方は、全く面白くないと思うので、よろしく。

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りょうはかつて京橋勤務の頃、京橋にあった「たつ屋」という牛丼屋で、多分年に250杯は牛丼を食べていた。そのうち200杯は、昼食、というかそこ以外でほとんど食べない。夜も頻繁にたつ屋。もちろん昼夜連続。まあ、そんな異常な牛丼フリークでもあったりょうであるが、特に吉野家については、牛丼は吉野家とかいうこだわりは全くない。むしろチェーンで一番好きなのがたつ屋(もう新宿にしかない)で、松屋と吉野家が同じくらい。で、もう2年以上も吉野家で食べてないから、いい加減味も忘れている。むしろ、以前よりも最近は牛丼を食べない日が圧倒的に増えたように思う。以前は六本木で時間が空いた時とか、吉野家でよく食べていたのだが。

ところが、日米合意に基づいて米国産牛肉輸入が再開され、先月18日、そして今月は月初5日間限定だが吉野家が牛丼を復活させた。思えば2年半にわたる、牛丼ブランクであった。他社はとうの昔に牛丼メニューを復活させ、ゼンショーなんぞはこれを機会にM&Aなどを駆使して業界最大手に躍り出た。この2年半、吉野家は何故、手をこまねいていたのだろうか。

あまり知られていないが、吉野屋が他社と異なり牛丼を販売しなかった理由は、このようなことらしい。
100年の歴史を経た“吉野家の牛丼”に対するこだわりとは、「穀物飼育された若齢肉用牛一頭から約10㎏しか取れないショートプレートと呼ばれる部位を使わなければ、吉野家の牛丼の味は出せない。つまり、他の部位を使うと、吉野家本来の味ではない牛丼になってしまうので、それはやらない」ということだ。
また、ショートプレートの確保に関する大きな障害が2つあるという。ひとつは、部位単位での肉の流通システムが確立している米国から調達することが最も合理的で、一頭丸ごとの取引形態を取る日本を含めた他の産出国からは、現時点の仕組みでは安定的確保が困難であること。そして、もうひとつは、吉野家の使用量は年間3万トンで、豪州と日本で生産されているショートプレートを全部買ったとしても足らないということ。
以上、日本総研橋本徳生氏コラムより
これには、自分は二つの意味で異を唱えたい。何も今言い出した話ではない、吉野家が牛丼の販売を止めると言い出した頃から、自分は周囲に大声でしゃべっていた。よくある誰にも言ったことのない「ほれみたことか」とは決定的に異なる話なので(といっても証人はネット上にはいないが)、とりあえずそういう目で見ないで聞いて欲しい。自分の当時の判断は、結論とすれば株式市場的判断では大正解であった。その後吉野家は牛丼業界で完全な「一人負け」である。そして、真の意味での企業価値的な意味においても、致命的失敗だったと更に言おう。後に述べるが、今後百年の展望を失ったに等しいのだから。

吉野家の経営戦略における致命的判断ミスのひとつは、「それでお前らは牛丼を食べたいという人々を、2年半も放置するのか」ということ。物理的にこの世から絶対に牛丼というものを作り出せないのなら、それも仕方ないだろう。しかし、現実には他社はもちろんのこと、「ショートプレート」じゃない牛バラ肉は、調達可能なのだ。だったら、それを使って次善の策をどうして追求することなく、早々と牛丼販売を中止し、米国産牛の輸入解禁まで「新しい牛丼」を開発しなかったのか。確かに品質にこだわることも大切だが、企業には「安定供給」の責任と義務があると思う。今になってこそ牛丼を2年半販売しなかったという、この「消費者をないがしろにした」経営戦略を評価する向きも増えているかに見えるが、この2年半消費者を吉牛から遠ざけたという戦略は、致命的な経営判断ミスだと断言する。現実に、この間吉野家の業績も株価も、最悪の推移を辿ったわけであり、これを「仕方なかった」とは自分は全く思わない。

例えどんな事情があろうとも、一度たりとも牛丼の火は消してはならなかった。数量が足りなければ、価格と限定数量でコントロールして、何がなんでも牛丼販売は続行しつつ、他メニューの開発・提供をすべきだった。そして、安定供給のために別の部位を利用した、新しい牛丼の開発をすべきだった。街道沿いの吉野家の看板を見てみるがいい。多くの店が未だに当たり前のように、「牛丼」の看板を掲げたままでいる。看板に偽りありとは、まさにこのことだ。そしてその結果、牛丼業界最悪の低迷となったこのブランド、株主にとっても、そして何よりも牛丼を食べたいと望む消費者にとっても、本当に最悪の経営判断だったであろう。

その上吉野家は最近になるまで牛肉メニューの投入を行わなかった。吉野家はようやく後半になって牛鉄鍋だの焼肉だのというメニューを販売始めたわけだが、それまでは一貫して牛肉以外、もっと言えば「豚」にこだわった。単品メニューとして成立させる商品が必要だったのだろう。オペレーション上無理だったと言いたいんだろう。しかし、吉野家は「吉牛」と言われるほど、牛肉のイメージが強い。そして、日本人にとって牛肉とは、昔からずっと憧れの高級食材。つまり、吉野家のアイデンティティとは、牛丼であり、高級食材牛肉を庶民的価格で提供する外食チェーンというものであったのは間違いない。

だとしたら、吉野家における本物素材とは、牛肉でしかありえない。ミキモトが模造真珠ばかり提供したら?COACHのバッグが素材を全て合皮に切り替えたら?話にならないだろう。それと同じだ。牛肉を提供しない吉野屋は、申し訳ないが「堕ちたブランド」以外の何ものでもなかった。牛丼が難しかったのなら、何故「牛」への拘りすら捨てたのだ。間違いなく言えるのは、投入して好調な売上を示した「牛焼肉定食」、物理的に不可能な店が多いかもしれなかったのは理解するが、投入がここまで圧倒的に遅れなければ、あのような事態は避けられた公算は大である。加えて、豚だの鶏だのを販売し続けたこの2年半、吉野家の「牛」ブランドは、相当失われたに違いない。それでも、今でもあれだけの祭りを起こせるだけ、元のブランド力の強烈さも理解はするが、牛を捨てていた2年半、この影響は将来確実に出るだろう。味というブランドに拘るのなら、少なくとも素材は捨ててはならなかったのだ。

そして、何よりも吉野家が失ったのは、時間だ。業績低迷により今、すかいらーくやゼンショーが手にしている外食企業の数々は、本来吉野家が手にしていてもおかしくないものばかりだ。外食における丼もの?業界の圧倒的なキングであったのが、同種の同業では規模において同業を買い捲ったゼンショーに抜かれ、自社の低迷はある意味同様低迷していたマクドナルドを救いそしてマクドナルドも今や復活、一方資本市場戦略としてはすかいらーくは経営フリーハンドを得るべくMBOで非公開企業となった。その間、業績低迷によりあらゆる方面で何ら手を打てなかった吉野家は今や、王者ではない。どころかむしろ少しビハインドである。牛丼復活でもちろん業績は圧倒的な回復となるであろうし(そんなにならんかもしれんが)、今後は今以上に、牛丼を2年半販売しなかった戦略に対する評価が集まると思うが、自分にはこの激動の2年半を、完全に自業自得の業績不振にあえぎ、ライバルたちに「追い抜かれてしまった」経営戦略を、ただの馬鹿だとしか思えない。質にこだわるのはいい。しかし、質にこだわり過ぎて大衆マーケティングに失敗し、自社が築いたOSのアイデアを盗まれたあげくマニア向けPCメーカーに転落し、今やむしろ携帯音楽プレーヤーメーカーとして生き残っているアップルコンピュータの例もある。株式市場に上場している以上、勝つのは義務だ。ゼンショーが、すかいらーくが買った企業はもう、吉野家は買えないのだ。この間ライバルにたまったキャッシュと、自社で起こったキャッシュアウトは、今後の経営戦略にどれだけ悪影響があるだろう。そして企業価値の源泉たる将来キャッシュフロー獲得という意味では、「吉野家」業態で得られる限界キャッシュフローを再現したところで、多彩なキャッシュフロー獲得ルートをこの間構築したライバルたちと、何の手も打てなかった吉野家、今後どれだけ不利になるであろうか。前段で百年の計を誤ったというのは、そういう意味だ。そのような観点から言えば、勝てる試合を2年半も不戦敗し続けた現在の安部社長の罪は、極めて重いといわざるを得ない。

とここまで書いといてなんだが、10月2日にそんな吉野家に牛丼を食べに行ってきたw 注文は、多分10年以上同じ文句、「並!卵!味噌汁!」。早速卵を割ってかき混ぜたものを回しがけ、七味を大量に乗せて、いつもの食べ方にする。e0094270_2093812.jpg
やはり、豚丼なんか全く話にならないほど美味しい。りょうは彼女ちゃん料理日記2に登場する彼女ちゃんの豚丼はこの世のものとは思えないほど美味しいと思うくらいだから、決して牛丼至上主義者でもなんでもないが、吉野家に限って言えば、豚丼は牛丼の1/10の価値もなかった。いや、豚丼が悪いのではない、吉野家の牛丼が出来がよすぎるのだ。やはりあのブランドを作り上げてきた吉牛、おそるべきものなのだ。

まあいろいろ言いたいことはあるが、15年ほど前まであれほど不味かった牛丼を、ここまで美味しくした企業努力は凄いと思う。とりあえず、自分としては牛丼が食えるようになった(であろう)ことで、満足することとしよう。
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by ryouchanxp | 2006-10-04 11:54 | 外食
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